かわらばん2022年3月号
文化庁主導の全国「歴史的建造物」調査は1960年代の「民家」に始まり、「近世社寺」「近代化遺産」「近代和風建築」等へと次々実施され、さらに近年のDOCOMOMO Japanとも連動するように2015年から「近現代建造物」調査が開始されており、各地域の建築遺産が総合的に把握されつつある。同時に2018年改正の文化財保護法に基づく都道府県の「文化財保存活用大綱」策定と同時に、市町村の「文化財保存活用地域計画」作成が現在進められている。ここから建築を含む文化財全般の今後のあり方が「リビング・ヘリテージ」による保存再生デザインへ進展するのは間違いない。かかる時勢に対応し、従来の「まもる」立場のヘリテージ・マネージャーから、いっそう高度に多様な「つくる」専門家として「ヘリテージ・アーキテクト」の確立が急務と指摘されている。そこで70年前の県建築士会創立時とは隔絶した現代社会でも、建築の商品としての経済的価値に偏在せず、今こそ初代会長・吉田宏彦が常々語った「人間の尊厳と建築文化」という普遍的価値を再考すべきであろう。建築をつくることは、単なる「手法」(経験)以上に「作法」(思想)と成らなければならないからである。(市川)

会誌13号10周年記念・表紙デザイン1962